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イマジン通信

通信事業部T 「在りし日の思ひ出」

昨日までの雨が上がってからというもの、日差しは朝からだんだんと強くなり、時折吹く風にもこころなしかまとわりつくような湿気を感じる。
四季の中で夏が一番好きな僕でも、日替わりでこれだけの温度差があるとちょっとダレる。
しかも高層ビルが立ち並ぶビジネス街は、まだそれほどではないにしろ、エアコンの排熱やコンクリートの反射でただでさえ暑い。

こんなに暑い中なのに、さっき得意先で出されたコーヒーはホットだった。
…あの受付の子、ちょっと可愛いと思ってたけど、もしかしたらあまり歓迎してないよ、というちょっとした意地悪なのかもしれないな。

いや、まてよ。
やたらと独り言が多かったあの先輩は、夏でも暑いからと言って冷たいものばかり飲んでると、かえって体に悪い、と言ってたっけ。
そうすると、あの子は僕の体調を気遣って、わざわざ熱いコーヒーを出してくれたのかも知れない。
そういえばミルクもスティックシュガーも添えられてなかったな。

僕はどちらかというと甘党だし、コーヒーにはミルクも砂糖もたっぷり入れたほうが好きなんだけど、あんまり甘いものを採りすぎないようにも考えてくれていたわけか…
思い返してみると、いつも必ずエレベータの前まで見送ってくれるんだよな。

さっきだって、他の会社の営業マンには、そんなことしてなかった。
でも、入れ違いにやって来た僕には、満面の笑顔を向けてくれて、すぐ案内してくれたっけ。
あれ、この事案にはもっと早急に、真剣に取り組まなきゃならないんじゃないか?

…自動販売機でペットボトルの水を買い、たまたま見つけた公園のベンチに陣取る。
木陰のその場所は、灼熱のコンクリートジャングルをさまよい歩いた僕が、旅の果てにやっとたどり着いたシャングリ・ラだ。
さて、ここで先ほどの事案に関して、じっくりと考察をまとめるとするか…

まずは一服…とペットボトルをあおろうとした時、僕は気づいてしまった。
気持ちよさそうに居眠りをしている、彼女に。
目を離せなかった。あられもない姿で、なんだろう、本当に気持ちよさそうで無防備で…
いや、美人、なんだよな。そう、ホットコーヒーを出してくれたあの子よりも。
そりゃあんまりジロジロ見るのは失礼だと思ったけど、こういうのを釘づけ、っていうんだろう。

…そういえば昔、やたらと貧乏ゆすりをする先輩が、本物の美人を見つけたときには、視線が釘付けになるもんだって言ってたよ…
僕は、無意識に携帯を取り出して、彼女に向けていた。
この無防備に眠りをむさぼる美人を、記憶だけでなく記録に残したい。
これはオトコの本能ってやつだ。神よ、許したまえ。
そういえば世の中には、カメラのシャッター音を消すアプリなるものがあるらしい。そんなものの必要性をついぞ今まで感じたことがなかったけど、この時ばかりは後悔した。
どうか神よ、シャッター音が彼女に聞こえませんように…

カシャッ

わざとらしいくらいに大きな音がした。ああ、神様。やっぱり僕の願いを聞き入れてはくださらなかったのですね…
果たして彼女は、その音に薄目を開けて、バカみたいに携帯をかざしたまま動けない僕を一瞥した。
そうしてすっと立ち上がると、すたすたと歩いて行ってしまった。

「アンタになんか、興味ないわ」

その凛とした後姿が語っていた。
…そういえばあの先輩も、鼻毛を抜きながら言ってたな…

本当の美人っていうのは、決して無駄口を叩かず、常に自分のスタンスを貫く生き物だと。
あの生き物は、確かに僕には永遠に理解できそうもない・・・

すやすや…

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